昼間に打ち合わせしたばかりの「パチンコ仁義Z」担当編集Sさんから、夕方に電話がありました。

「カネシゲさん、ニュースみました?」
「いいえ。どうかしました?」
「小林繁が亡くなりました」
「え!?」

心底驚きました。
なんせさっきの打ち合わせで、小林繁氏の話題でひとしきり盛り上がったばかりだったからです。


※   ※   ※


Sさんは巨人ファンで大の野球好き。
いつも打ち合わせの際には野球の話題で盛り上がります。

今日は「赤星引退」の話から「福本豊」の話題になり、そこから「投手のクセ」の話に。
投手のクセを見破り打撃に生かすという概念を日本に持ち込んだのは、最後の四割打者であるテッド・ウイリアムスの著書「打撃論」に影響を受けたノムさん。
だからノムさんが南海にいたころの関西野球は、情報戦や緻密さにおいて関東よりもずっと進んでいたという話を小林繁がインタビューで語っていた…

そんな自然な流れで「小林繁」の話題へ。

「たしか移籍の年、巨人戦に8連勝して最多勝も獲ったんですよね」
「その後はそれほど勝てなかったんでしたっけ?」
「燃え尽きちゃったんですね…」
「きっと、そうでしょうね」

いわゆる「江川事件」は78年。
当時3歳の僕に記憶があるわけもなく、僕より年下のSさんはなおさらであり、二人とも文献から知る伝説を語っているにすぎません。

「あと、『関西での人気はものすごかったけど、どこへ行っても同情される。それが何よりも嫌だった』そうですよ。これもご本人が語ってましたけど」
「へぇー、そうですか」
「いまは日ハムの投手コーチですね。二軍だったかな、一軍だったかな」
「昔、近鉄でもコーチやってませんでした?」
「やってましたよ。真弓さんもその頃コーチで…」
「あの近鉄優勝の年、二桁勝った前川の防御率がひどかったんですよね」
「たしか5点台」
「そうそう。小林さんのピッチングコーチの資質ってどうなんでしょうね?」

そこからしばらく「近鉄対ヤクルトの日本シリーズ」に話題が飛びました。
そして最後にS氏が、思い出したように一言。

「でも、あの江川と共演したCMは、良かったですよね」


※   ※   ※


小林繁さんが当時の関西野球を「緻密だった」と語ったインタビューは矢崎良一さんが著した「元・巨人」(廣済堂あかつき)という本に収録されています。

元・巨人 (廣済堂ペーパーバックス)
元・巨人 (廣済堂ペーパーバックス)
矢崎 良一


それまでやってきたものとは野球の質が違ったわけ。やはり野村(克也)さんが関西(南海)にいたことで、関西の野球と言うものは、情報戦なんかも含めて、関東の野球より進んでいた。
それまで、ジャイアンツは最高の野球をやっていると思っていたのが、とんでもないってことに気づいたよ。こっちのほうが全然細やかな野球をやっていたんだって。
(矢崎良一著「元・巨人」 第一章「独白 小林繁」より)


そして我々が話をした「燃え尽きた」という部分については、以下のように語られています。

でも、そんな1年目のみなぎるような気持ちも、年々薄れていく。
そうなると、なかなか勝てなくなる。それに、年々投げやすい選手、自分が知っている選手がどんどんいなくなってくる。
(中 略)
僕のトレードの翌年、ジャイアンツは伝説の伊東キャンプをやって、若い選手にドンと切り替えたわけ。そこから、篠塚(利夫→和典)が出てくる、中畑(清)が出てくる、松本(匡史)が出てくる。彼らのこと、全然しらないんだもん。
(中 略)
そうしたらもう、まったく違うチームだから。同じジャイアンツのユニフォームを着ている別のチームという感じ。そうなれば、当然、こちらのモチベーションの部分もなおさら弱くなってくる。
(矢崎良一著「元・巨人」 第一章「独白 小林繁」より)


ちなみにこの「元・巨人」という本は、少し前に「萌えろ!プロ野球」の担当さんからいただきました。

もともと99年に刊行された本で、それは僕も持っていたのですが、今回廣済堂さんから廉価版として再発売されるにあたり大幅に加筆修正されていたので、楽しく読むことができました。

つい先日読み返したばかりの小林さんのインタビューは記憶に新しく、関西野球に関する記述などを覚えていたことで、僕は今日の雑談に「小林繁」を持ち出したわけです。
思えばこれも伏線だったのか。

「今日、訃報を知る前に小林繁について語った人間なんて、日本中にそういないですよね…」

驚きを噛みしめつつ話すSさんの言葉にうなずきながらも、電話を切った後、いや待てよと。

〜案外そうじゃないかもしれない〜

そんなことを思いました。
故人の野球に対する情熱が我々のような一介のファンに「小林繁」を語らせたとするなら、似た体験をした人は日本中にたくさんいるはず。
きっとそうに違いない。

57歳…若すぎる死。
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。




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