「ここはダルビッシュを信じるしかありません」
9回裏、ランナーを背負った苦しい展開のなか、つとめて冷静を装いながらアナウンサーが言う。
「そうだ、信じよう」
同点に追いつかれながらも後続を断ち切り、10回の攻撃につないだダルビッシュ。
内川、執念のポテンヒット。
稲葉が送り、岩村もレフトへクリーンヒット。
ライナー1・3塁。
しかし川?が倒れ、2アウト。
マウンドにはイム・チャンヨン。
打席にはイチロー。
1塁が空いているこの場面で、韓国バッテリーは勝負を選んだ。
それもプライド。
それも流儀。
それもまた、粋なり。
あえて言おう。
彼らもまた、サムライであったと。
追い込まれてからファウルで逃げつつ、イチローは技術と気迫で好機を探る。
岩村はその隙に盗塁。
くらいつく。
くらいつく。
そして9球目。
真ん中に甘く入ったシンカーを、遅れて目覚めたサムライは見逃さなかった。
今まで何度繰り返しただろう。
今まで何度見せてくれただろう。
イチローが振りぬいた“刀”は鮮やかな弧を描き、“獲物”をまっすぐに弾き返した。
旅は終わった。
長く苦しい、戦いの旅だった。
しかし我々は帰ってきた。
「世界一」という名のふるさとへ。
叫ぼう、誇りを。
掲げよう、旗を。
遠い異国で戦った、サムライたちに届くように。
(冒頭の「日の球」イラストは「たんたんBLOG」からお借りしました)